コトの発端はコーチのエリックから来た、チームメンバー宛てのE-mailでした。主題名は、その名も「CAPTIN」だったのですが、彼からのメールを簡単に説明するとこうです。「既にシーズンは始まっているけど、チームのキャプテンを決める必要があると思う。ここは一つ投票で決めたいので、各自が私宛にメールで推薦して欲しい。 追伸 秘密は守るので他の選手を気にせずに書いてください」と言うものでした。
最初にJがこのメールを見たときに気に掛かる点が2つありました。まず、1つ目は主題の前に「re:」という文字が入っていたのです。これは、E−mailをする人なら分かると思いますが、誰かから貰ったメールに対して返事を書くときにつく文字です。ということは、このメールはコーチのオリジナルではなく、チームの誰かからこの話を持ちかけられて、それにコーチが答えるべく、全員宛てに投票を要求するメールを送ったことが推測されるのです。次に気に掛かったのが、メールリストにボブの名前が無かったことです。彼はチーム登録の際に、コーチが最後まで悩んだ末に入った選手で、実力的にはD1での活躍は難しく殆ど試合には出られない状態の選手でした。しかも、本人も自分の立場をよく理解していているようで、チームの中では応援係に徹している感じの選手なのです。しかし、チームの一員として登録がある選手にはかわりないのです。
正直言って怪しい臭いがしたのですが、Jは悩んだ末にある選手を推薦するメールを送ったのです。しかし、やはり数人の選手からクレームが入ったのでした。まず、エディがボブの名前が入っていないことを抗議するメールを皮切りに、リーダー論や聖書まで用いて、このやり方のマズさや、キャプテンとは何ぞや!という意見を書いた長いメールなども届いたのでした。また、ポールからは、彼も既に投票を済ませたらしいのですが、彼自身がその投票を後悔して訂正したいと、反対意見の10か条なるものまで書き添えて、この投票への反対を求めたのでした。さすが教職者であるポールらしいメールでした。 そして、駄目押しでマークからは、上記の怪しい2点を指摘した上で、「投票で何かを決める場合、時としてそれは人気投票と化し、本来あるべき目的が達成されないことがある」というメールが届いたのです。その後も2日の間に15通以上のメール論議が続いたのです。
そして、最後に決着を見たのはマークのメールでした。「今週末に大事な試合がある上、今後厳しい戦いが増えていくはずだから、俺達は全員で飛躍していかなければならない。練習回数も増やしたいし、出来るだけ多くの選手が参加すべきだ!」と。そして、「一人のキャプテンを決めるよりも、その試合で精神的にもプレー的にも信頼できる選手をコーチが判断して決めればいいのでは?」という提案に選手達が賛成するメールが届き、いつの間にかチームメールの話題が一変して、練習や試合日程などの話に変わったのでした。
ところで、最初にコーチと密会のメールをした人は誰か??という疑問がでてくるのですが、みんなはそれを知った上で、彼に対する非難、批判は一切メールに出てこなかったことが素晴らしいと思いました。また、このメールのやり取りは非常に難しい言い回しや、スラング?慣用言葉がたくさん出てきて、直訳しても意味不明で理解できない部分が非常に多く、Jも困り果てたあげくにコーチの職場まで行って事情を聞いたりしました。ただ、最後はみんなの意識や協調性が増したように感じ、“雨降って地固まる”というようになったみたいです。
最後にJの考えとしては、「投票」というのは、さも民主主義的で正しいような感じがするけど、実は投票が必ずしも民主主義的ではないし、正しいと言うわけでもないという気がしてなりません。逆に言えば投票で済ませることは非常に安易で適当なのだということです。まあ、それでも投票制度を使わなければ済まない問題があることも理解しますが・・・・。 一見「投票」=「民主主義」と思いがちですが、何でも投票で決めれば正しいと言う考えは非常に危険です。そして、数が多ければ正しいと考えることが民主主義であれば、それは単なる多数派のエゴになってしまうように思うのです。 しかも、今回のように事前にネゴがある場合はもっての外です。 また、少数派には少数派の考えや意見があっていいし、そういう全ての人や物が理解、妥協、共存していける環境を作り出すために、最善を尽くして考え、話し合うのが本当の民主主義なのだと思いました。
今日はなんだか当選を目指す政治家みたいな意見になってしまいましたが、本当の民主主義ってこんな感じかなーーーーと、思えるような経験をしたので書いてみました。